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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)783号 判決

控訴人

富士興業株式会社

右代表者代表取締役

松尾ハズエ

右訴訟代理人

大久保純一郎

被控訴人

株式会社石間工務店

右代表者代表取締役

佐藤勇

右訴訟代理人

森川静雄

馬場敏郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加訂正するほか、原判決摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する。

(被控訴人訴訟代理人の陳述)

一  原判決の事実欄第二の三、1の「脱衣室および廊下、建具等の美装工事」を「脱衣室及び廊下の床面及び建具等の美装工事」と、同2の「外部塀の裏側部分」を「外部塀の表及び裏側部分(各一部)」と、同6の「外部ガラス・ブロック補修工事」を「外部ガラス・ブロック補修等雑工事」とそれぞれ訂正し、右6の次に、「7 同年十一、二月ころ控訴人の申出により、本件建物の塗装及び建具補修工事」を付加する。

二  被控訴人が受注した追加工事はもとより有償の約定であつた。

(控訴人訴訟代理人の陳述)

一  原判決事実欄第二の三、5の工事に関する被控訴人の主張事実は否認する。

二  被控訴人の前記一の主張事実中訂正後の1、2の工事内容は認める。同6の工事内容のうち外部ガラス・ブロック補修以外の雑工事は争う。被控訴人が付加して主張する7の工事のうち脱衣室入口板戸の建具補修工事を控訴人が申し出たことは認めるが、その余は争う。但し、控訴人が申し出たことを認める工事が元来本件請負契約の対象工事に含まれるものであることは従前主張したとおりである。

三  仮りに控訴人が、被控訴人主張の工事を本件請負契約の範囲外の追加工事として被控訴人に発注したとしても、該工事が有償の約定であつたとの被控訴人の前記二の主張は否認する。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一被控訴人が一般建築等の請負を業とする会社であること、被控訴人が昭和四九年九月中旬ころ控訴人の注文により、控訴人所有の本件建物の各種補修工事を代金三三〇万円で請け負い(本件請負契約)、同年一〇月下旬ころ右工事に着工したことは当事者間に争いがない。

二(一)  そこで、被控訴人主張の追加工事契約の成立について判断するのに、〈証拠〉を総合すれば、被控訴人は、本件請負契約の追加工事として

1  昭和四九年一一月一二日、控訴人の代理人訴外松尾日出子(控訴人代表者松尾ハズエの娘)、同訴外加藤実(控訴人の社長秘書)の申出により、脱衣室及び廊下の床面及び建具等の美装並びに洗面所及び便所の壁塗替工事の、

2  同年一二月一〇日、控訴人の代理人訴外松尾国三(控訴人の代表者松尾ハズエの夫で、本件請負契約の締結にあたり、控訴人の代理人として関与した者)、同加藤実の申出により、外部塀の表及び裏側部分(各一部)のリシン塗替並びに別棟のガン吹付け工事の、

3  そのころ、控訴人の代理人松尾日出子の申出により、犬小屋を置くためのポーター・ブロック積み及び土間コンクリート打ち等の工事の、

4  同年一一月一五日、控訴人の代理人加藤実の申出により、奥日本間障子紙貼り及び電気笠紙貼り工事の、

5  同月二六日、控訴人の代理人松尾日出子の申出により、寝室の壁紙貼り及び天井布貼り工事の、

6  同年一二月一〇日、控訴人の代理人松尾国三の申出により、外部ガラス・ブロック補修工事の、また、そのころ、控訴人の代理人である松尾国三方被用人の申出によりその余の各所補修工事の、

7  そのころ、控訴人の代理人松尾日出子の申出により、木格子上下鉄部の錆止め等の塗装及び脱衣室入口板戸等の建具工事の

施工をそれぞれ請け負つたこと(以下これを「本件追加工事契約という。)、被控訴人は、本件追加工事契約について控訴人の代理人加藤実に対し当該工事がいずれも本件請負契約の工事とは別個の追加工事となる旨を断わり、これにより、別途に代金を貰い受ける趣旨を伝え、同人の承諾を得たこと、但し、代金額は定額にせよ概算にせよ定めなかつたこと、被控訴人はおそくとも昭和五〇年二月一八日までに本件追加工事を完成して、控訴人に引き渡したことを認めることができる(控訴人が前記1、2、3、4の各工事、6のうち外部ガラス・ブロック補修工事、7のうち脱衣室入口板戸の建具工事の申出をしたことは当事者間に争いがない。)。

(二)  控訴人は、前記1、2、3、4の各工事、6のうち外部ガラス・ブロック補修工事、7のうち脱衣室入口板戸の建具工事は本件請負契約の対象とされた工事に含まれる旨主張し、原審における証人松尾国三、同加藤実は、控訴人の代理人松尾国三が被控訴人との間で本件請負契約は本件建物のうち来客が通る部分の一切合財を補修することを目的とするものであることを確認して、該契約を締結したものであり、したがつて、前記工事はいずれも本件請負契約の対象とされた工事に含まれる旨供述する。しかし、〈証拠〉によれば、本件請負契約がそのような包括的なものであることを確認したうえで締結されたという経緯は存しないこと、本件請負契約は被控訴人があらかじめ工事内容の明細を記載した見積書を控訴人社長秘書加藤実に交付し、同人に右見積書の内容を説明するという手順をふんだうえ、控訴人の代理人松尾国三が被控訴人に注文書を差し入れることにより、締結されたものであり、本件追加工事は右見積書記載の工事範囲に含まれていないことが認められ、加藤実が右見積書によつて諒解した事項は、特段の事情がない限り、松尾国三に伝達されたものと推認されるから、原審における証人松尾国三、同加藤実の前提供述はそのまま信用することはできない。また、当審における証人松尾日出子の供述中控訴人の主張に添うような部分も同じ理由により採用できない。

(三)  控訴人は、被控訴人が控訴人申出の工事を無償で引き受けたものであり、犬小屋関係工事も被控訴人がサービス工事として無償でしたものである旨主張する。なるほど、〈証拠〉によれば、被控訴人は本件建物の建築を請け負つて施工した業者であり、本件請負契約の直前にも本件建物付属の駐車場の建築工事を請け負い、施工しており、被控訴人にとつて控訴人ないしその会長として会社経営の実権を握つている松尾国三は有力な得意先であること、本件請負契約に基づく廊下の美装工事、外部塀のリシン塗替工事施工の結果、当該廊下や外部塀の施工外の部分の汚れがかえつて目立つ状態となり、これについて松尾国三が本件請負契約の履行は中途半端であるとして、被控訴人の工事課長訴外中村厳を難詰するという一幕もあつて、前記施工外の部分の美装、塗替を行うため本件追加工事の運びとなつたことが認められるが、叙上のような事情があつたからといつて被控訴人が本件追加工事を無償で引き受けたと認めることは無理であり、他に前記(一)の認定を覆えして、控訴人の主張を認めうる証拠はない。

三ところで、本件のように報酬額の定めのない請負契約においては、当該請負工事の内容に照応する合理的な金額を報酬として支払うというのが契約当事者の通常の意思に適合すると解される。本件において、〈証拠〉によれば、本件追加工事の報酬額は一八七万二八〇〇円とするのが相当であると認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

四以上によれば、控訴人は被控訴人に対し本件追加工事代金一八七万二八〇〇円及びこれに対する弁済期(工事の引渡時)の後である昭和五〇年三月一日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

そうとすれば、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

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